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僕・ぼく・私 [books]

「私小説」は作家本人と思しき人物が主人公として描写される。『一人称単数』(文藝春秋 2020)の語り手(僕・ぼく・私)も作者本人だと思われる。「ヤクルト・スワローズ詩集」 には「一九六八年、この年に村上春樹がサンケイ・アトムズのファンになった」という記述がある。現実に起きたような事実を一人称視点で描いた「小説」はエッセイと見分けがつき難い。一夜を共にした女性から自費出版した「歌集」が送られてくる 「石のまくらに」、公園で向かいのベンチに座っている老人に語りかけられる 「クリーム」、バードの架空アルバム評を大学の文芸誌に寄稿した 「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」、ガールフレンドを迎えに行った彼女の家で兄と長話して芥川龍之介の「歯車」を朗読する 「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」、クラシック演奏会で出会った醜い女性F*とシューマンのピアノ曲で意気投合する 「謝肉祭(Carnaval)」 ‥‥全8篇中、群馬県M*温泉の鄙びた旅館で従業員の猿と会話を交わす 「品川猿の告白」だけはリアリスムの範疇から逸脱している。バーの女性客に絡まれる 「一人称単数」も相手は「私」を村上春樹と認識しているのだろう。

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一人称単数

一人称単数

  • 著者:村上 春樹
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日:2020/07/18
  • メディア:ハードカヴァ
  • 目次:石のまくらに / クリーム / チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ / ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles /「ヤクルト・スワローズ詩集」/ 謝肉祭(Carnaval)/ 品川猿の告白 / 一人称単数

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