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川野芽生初期作品集 [books]

『月面文字翻刻一例』(書肆侃侃房 2022)は著者がデビュー以前(2013~2017年頃)に執筆した掌篇小説集。ネットで公開したり、同人誌に寄稿した全49篇を収録。「月面文字翻刻一例」 「眠られぬ夜と昼のための物語」 「本盗人」 「桜前線異常なし」 という4テーマに分かれている。いわゆるオチのある「ショート・ショート」ではなく、未発表の長編ファンタジ ーから零れ落ちた断片、失われた夢のエピソードのような趣き。表題作は月面に紋様を描く彫師(私)が語る話で、フィリップ・K・ディックの「逆まわりの世界」のように彫師は老いずに若返って行く。「月の鱗粉」 は地球に落ちて来た月が地面を突き抜けて黒い穴を空けるという山尾悠子の「遠近法」を想わせる異世界を描く。短歌ムック 「ねむらない樹 vol.7」(2021)に寄稿した短篇 「蟲科病院」 と書き下ろし 「天屍節」(前者は体内に寄生する悪性の蟲を除去し、良性の蟲を植えつける医者ルルズルー(私)、後者は空から落ちて来る腐りかけた天使の骨を焼いて人形を造る「私」の物語)を巻末に併録した「初期作品集」だが、「本当に本当の初期といったら三歳頃になる」(おぼえがき)というのだから驚きである。

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月面文字翻刻一例

月面文字翻刻一例

  • 著者:川野 芽生
  • 出版社:書肆侃侃房
  • 発売日:2022/10/19
  • メディア:単行本
  • 目次:月面文字翻刻一例 / 月の鱗粉 / 水死 / 月の夜に / 闇の夜に / 廃世 / 月よりもやすらかに / 闇の夜に貴方は/ やわらかい兄 / 遠き庭より / 不寝番 / みどりの狼 / 陽宮 / シメール、帰還兵 / 上陸 / 鳥と男と / 棲まうもの / 塔 / 黄金の鬣 / 火とカサンドラ / 本盗人 / 花兵 / 水墓 / 多情 / 砂の両手 / ものがたりたちの森 / 女の子たちは工場を出て / 薔薇の...

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