兎のダンス [books]
《クーラーが壊れたので、窓を開けたら、兎が一匹、飛び込んできた。床の一点に片脚で爪立ち、くるりと回転して、床に仰向けになった。躰が二つに開いた》‥‥400字足らずの掌編 「そ、そら、そらそら、兎のダンス」(2011)の中に、皆川博子のエッセンスが詰まっているように思えてならない。時の流れは遅々として進まないように見えるが、一度たりとも止まることはない。少女の50年後の姿を想像することは比較的容易いけれど、その逆は難しい。過ぎ去った時間は巻き戻せない。フィリッパ・ピアスの「トムは真夜中の庭で」のように、老婆と少女が可逆的に結びつかないからだ。ところが不思議なことに、結婚して出産、子育てを終えてから40歳過ぎにデビューしてから約半世紀、今でもバリバリの現役作家の少女時代は鮮明に目に浮かぶ。『薔薇密室』(2004)のミルカ・コヴァリチク、『倒立する塔の殺人』(2007)の阿部欣子、『クロコダイル路地』(2016)のメイ・オコナーなど‥‥本の虫で、旅行嫌い。方向音痴で、運動神経ゼロの作者が作中の少女たちに投影されているからだ。皆川博子の「兎のダンス」はシュールで可愛い。
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著者:皆川 博子 / 日下 三蔵(編)
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- 出版社:KADOKAWA
- 発売日:2018/10/26
- メディア:単行本
- 目次:夜のリフレーン / 夜、囚われて… / スペシャル・メニュー / 赤姫 / 夜明け / 陽射し / 恋人形 / 赤い砂漠 / 紡ぎ唄 / 踊り場 / 笛塚 / 虹 / 妖瞳 / 七谷屋形 / 島 / 紅い鞋 / 青い扉 / 新吉、おまえの / 桑の木の下で / そ、そら、そらそら、兎のダンス / 水引草 / メタ・ドリーム / 蜘蛛が踊る / そこは、わたしの人形の / あとがき / 編者解説・日下 三蔵
2020-11-28 00:28
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