SSブログ

月夜の森の猫 [books]

最愛の夫(藤田宜永)に先立たれた作家(小池真理子)は喪に服して1年、亡き伴侶との過去の記憶や現在の心境を綴る。朝日新聞日曜版「be」に1年間連載されたエッセイ52篇。亡夫に纏わるセピア色の追憶や思慕の中で、夫妻と暮らした猫たちが印象派の明るい絵画のように点描される。夫の遺した介護ベッドで寝る2匹の飼い 「猫たち」。道先案内する茶トラ「猫のしっぽ」を軽く握って、誰もいない森の中を散歩したこと。突然食事をしなくなった飼い猫を連れて行った「動物病院にて」見た幻影‥‥「帰路、燦々と降り注ぐ春の陽差しを浴びながら、私は忘れかけていた深い幸福に酔いしれた」。夫への愛情が湖のように深いだけに、喪失感も涸れた井戸のように空虚だ。「愛と死」 は表裏一体。「愛」 は月夜のように輝くけれど、「死」 は暗い月の裏側に隠れている。霧深い森の彼方から聞こえて来る精霊のような儚いヴォイスのバックグラウンドで梟が鳴く。『月夜の森の梟』(朝日新聞出版 2021)のBGMとして最も相応しいのはGrouperの《Shade》(Kranky 2021)ではないだろうか。

                    *


月夜の森の梟

月夜の森の梟

  • 著者:小池 真理子
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 発売日:2021/11/05
  • メディア:単行本
  • 目次:梟が鳴く / 百年も千年も / 猫たち / 音楽 / 哀しみがたまる場所 / 作家が二人 / 不思議なこと / 夜の爪切り / 光と化して / 降り積もる記憶 / 最後の晩餐 / 猫のしっぽ / 生命あるものたち / 喪うということ / あの日のカップラーメン / 金木犀 / それぞれの哀しみ / Without You / 先人たち / 亡き人の書斎 / 蜜のような記憶 / 三島と太宰 / 夢のお告げ / ...


Shade

Shade

  • Artist: Grouper
  • Label: Kranky
  • Date: 2021/10/22
  • Date: 2021/10/22
  • Songs: Followed The Ocean / Unclean Mind / Ode To The Blue / Pale Interior / Disordered Minds / The Way Her Hair Falls / Promise / Basement Mix / Kelso (Blue Sky)

コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。